The embodiment of scarlet devil - 東方紅魔郷

低いうなりが、身体の奥に吸い込まれ、徐々に消えていく。

窓にはリネンのカーテンが引かれ、外の景色は見えない。今は多分、見たことのない風景が広がっているのだろう。昼の光が射しているようだから、確かめてみることは出来ない。テーブルに置かれたカップは未だ小刻みに震えている。

幾度この感触を味わったか、覚えてはいない。窓から覗いた風景も、もうあまり記憶に残っていない。つい数瞬前まで、眺めていたはずなのに。

振動は収まり、もう僅かな音さえも聞こえない。テーブルの向こう側に忽然と人のシルエットが現れ、何事やら述べている。ああ、咲夜、ランプを点けて頂戴。一番大きいやつを。

カーテンの隙間から漏れる光は、はっきりとした形を作っている。珍しく従者の困惑を見て取れるのが少し面白かったが、でも、どうでもいい。

従者が現れたときのようにこれまた忽然と、大きな燭台がテーブルに現れた。当然蝋燭は全て新しく、炎が灯されている。六つに分かれた枝は、まるで黄金の樹。でも、違うわ、咲夜。蝋燭じゃない。私はランプと言ったのよ。

再び従者の困惑が伝わってくるが、もう面白くもない。お嬢様、と何か言いかけたようだが、黙ってランプを部屋の棚に置き、火を灯して回る。燭台はすでに跡形も無く消えている。そう、それでいい。

咲夜、ここは明るいわね。でも、外は眩しくて不快だわ。薄暗くなった方が風情が出ると思わない?

――ご随意に。いつものように傅く従者。ふふ、全く……顔に出るわね、咲夜。

カーテンの隙間から漏れる光は、すでに形を失っている。ゆらめくランプの光が心地良い。

さあ、今度は一体誰が来るのかしら? せめて門の内側くらいまでは入って来て欲しいわね。折角歓迎の用意をしているというのに、皆すぐに帰ってしまわれるのだもの。

お嬢様。従者が主に呼びかける。口調に少し咎めるようなものが入っている。何かしら、咲夜。 ――いえ、……紅茶の代わりをお点て致しましょうか?

ふふ、咲夜、貴女は本当に有能ね。人間にしておくのが勿体無いくらい。そうね、咲夜。ジンジャーのクッキーも持ってきて頂戴。久しぶりにパチェも呼んで、お茶を楽しみましょう。